正しいメガネのずらし方

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「読んでいない本について堂々と語る方法」を読んで - これからの情報との接し方

読みながら久しぶりにワクワクした本。
書籍名はなんだかうさんくさい印象を持ってしまいそうだけど、とんでもない!!

多面的に読めて示唆に富んでおり、さらにこれまで類書のないような本である。
今まで誰も書かなかった、いや、不謹慎すぎて書くことが憚られたような内容を真正面から、言われてみればまっとうな正論として展開している。
思わず唸りそうになるような納得箇所も満載だった。

読んでいて書かずにいられなくなったので、自分なりに思ったことを書いてみた。

↓紹介文から引用

本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ―大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス文壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

これまで語られなかった新しい読書術

上記、引用でもあるように本書では「本は読まなくていい」と断言しているわけだが、これは噛み砕いて説明すると、本とはその純粋な本そのものの内容だけではなく、そこに読者という存在が入ることによって様々な要素が発生し、本の内容そのものよりも、豊かなサブテキストが生まれてそれを語ることができる、ということになるだろう。

なんだかややこしい話に聞こえるが、対象の書籍そのものだけでなく、関連する他の書籍や、そのジャンルにおける位置付け、また読もうとする・流し読みする・表紙と目次だけ見たなど様々な読み手のレベル、他の読者がどう読むか、あるいは誤読についてまで、多くの情報が発生しうるわけである。

つまりはその本単独の情報に思い切り近づいて読むよりも、せいぜい流し読み程度の方が、自らの創造的な活動を促すにはちょうど良い、ということである。

そしてこれは既になんらかの専門家であったり、かなりの読書家であればなおさらのことなのだろう。 本書最初にあるオスカー・ワイルドの引用にもその訴えがよく分かる。

私は批評しないといけない本は読まないことにしている。
読んだら影響を受けてしまうからだ。(オスカー・ワイルド)

逆に言うと、そのような背景・価値基準がまったくない人(例えば幼いこどもなど)が、読書すべき人々にあげられるのかもしれない(?)が。
ある程度の素養とその対象によってしっかり学ぶべきなのか、流し読みか、むしろ読むべきでないのか判断が必要である、という読書指南を自分自身で判断する自覚が必要とも思えた。

情報過多時代の情報との接し方

そのような読書に対する姿勢に、この情報過多時代における情報との接し方のヒントがあると思った。

現在は出版される本はもちろん、テレビ・新聞やラジオなどマスメディアに加え、個人でも発信できるインターネットでも発信される情報は飛躍的にその量が増えた。
個々の情報全てに精通するというのは既に不可能なのだから、その取捨選択をしないといけない。

実は誰だってそれをやっているのだが、ほぼ無意識のレベルである。
(例えばなんとなく空き時間があるとスマホを見てしまうという人は多いのではないだろうか。)

どんな情報でもその詳細を掘りかえし出すととんでもなく時間がかかってしまう。
なので詳細は読まず、見出し(目次)やジャンル、社会的な位置づけをざっと把握するのみで良いのだ。
本書の第一章に引用される「特性のない男」の図書館司書ムジールの本との接し方が、まさしく現代での基本的で正しい情報の接し方をあらわしているように感じる。

有能な司書になる秘訣は、自分が管理する文献について、署名と目次以外は決して読まないことだというのです。『内容にまで立ち入っては、司書として失格です!』と、彼は私に教えてくれました。『そういう人間は、絶対に全体を見晴らすことはできないでしょう!』(p.29)

コミュニケーションに関する絶望

本書を読んでいて突きつけられるものは、希望の他に絶望もある。
結局のところ、人と人は分かり合えないということと、そもそもコミュニケーションとはディスコミュニケーションが前提である、ということだ。

第三章は本を読まずに語るためのコツが書かれているが、内容はその裏に人間同士の認識不足によるものが繰り返し語られる。

III
1.気後れしない
2.自分の考えを押し付ける
3.本をでっちあげる
4.自分自身について語る
(目次より)

すべて人間同士の理解の難しさが前提で可能な手法とも言えるわけである。

最後の希望と本書の真の目的

第三章最後には著者の真の目的が明かされる。
それは、「本を読む」だけでなく、読んだら「創造・創作せよ」ということである。

みずから創作者になること-本書で私が一連の例を引きながら確認してきたことが全体としてわれわれを導く先は、この企てにほかならない。これは、内なる歩みによってあらゆる罪の意識から自由になったものがアクセスできる企てである。(p.269)

これもインターネットによって自ら発信することのコストがグッと下がった現代ならではの示唆でもある。

引用を中心とした叙述方法

個人的に大変参考になった点がもうひとつある。
この本の中で論を展開する場合にとてもシンプルかつ効率的な構成を採用しているところだ。

延々と自分の言葉で話を展開するのではなく、各章で必ず一作品を大きくとりあげ、その内容紹介・引用とともに少し補足説明を入れるという書き方が取られている。 これは読んでいても、「へぇ〜、そんな小説あるんだー」ってそのあらすじだけでも結構面白く読めて、続く説明もすんなり頭に入った。

そして書いてる作者にとってもフォーマットとして書きやすい手法なんではないだろうか。
これは自分な何かを書こうという場合でも大変参考にできる良い方法だと思った。

最後に

年初からかなり良い本を読んでしまった。
本読むの好きな人には必ず読んで損しないよ!!と断言できる良書です。

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

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